大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和60年(行ウ)8号 判決

原告 馬原郁 外六四八名

被告 京都市長

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  (主位的請求)

被告が昭和五九年三月一日付で別紙物目録記載の土地についてした都市公園区域変更処分を取り消す。

(予備的請求)

同都市公園区域変更処分は無効であることを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

(本案前の申立て)

主文と同旨。

(本案についての申立て)

1 原告らの請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告らは京都市の住民である。

2  被告は昭和五九年三月一日、都市公園用地であつた京都市所有の別紙物件目録記載の土地を都市公園区域から除外する旨の都市公園区域変更処分をした。

京都市は、同年四月一八日、西武鉄道株式会社に対し、右土地を、二九億三一四四万七五五二円で売却する契約を、随意契約の方法でして、同年五月一日同社に対し、右土地につき、所有権移転登記をし、引渡をした。

3  本件都市公園区域変更処分は、都市公園法一六条に定める三つの限定要件のいずれをも欠いている点で違法、無効である。

4  原告らは昭和五九年一一月七日(受理日は同年一二月四日)京都市監査委員に対し、本件都市公園区域変更処分が違法、無効であり、右土地は未だ行政財産であるから、これを譲渡することは許されないこと、その他を理由として、前記西武鉄道株式会社との間の売買契約を解除し、同社に右土地につき、前記所有権移転登記の抹消と右土地の返還を求めるべきことの被告宛の措置を求めた。京都市監査委員は昭和六〇年一月三一日付で原告らに対し、右措置請求は理由がない旨の監査結果を通知した。

住民監査請求、住民訴訟の制度、趣旨からすると、住民訴訟の対象行為は、住民監査請求の対象行為と実質的な同一性があれば足りる。住民監査請求において、売買契約違法の理由として本件都市公園区域変更処分の違法を主張していたものであるから、住民監査請求では右処分の取消し、無効確認を直接の対象にしていなくとも、右処分の取消し、無効確認を求める住民訴訟が違法となるものではない。

5  住民訴訟の対象となる行為が財務性を具えていることが必要であるが、そこでいう財務性とは、地方自治法二四二条一項の行為類型に該当し、かつ当該行為が現実に財政上の損失をもたらし、又はもたらすおそれがあるかどうかにより判断すべきである。本件都市公園区域変更処分については、次の理由によつて財務性を認めるべきである。

(一) 本件都市公園区域変更処分は、後続する土地売却とは別個独立に、市財政に損失をもたらしている。

仮に、都市公園廃止処分が、天変地異や長期の管理放棄等の結果、都市公園としての形状、機能を喪失したのちに発せられたものであるならば、処分が明白に違法であつても、公園としての再生に支出を要することと考えあわせたとき、処分が直接に市財政に損失をもたらしたわけではないから、この処分に財務性は認められないこともあるであろう。本件都市公園区域変更処分によつて廃止された公園の部分は、処分時に至るまで公園としての維持管理が続けられ、処分時においてなお周辺住民を中心に広く市民に利用されていた。公園のこの部分は、長期にわたつて多額の市費を投じて整備されてきた結果、納税者たる市民にとつて、貴重な共同の社会的資産となつていたのである。しかるに、被告は、遅れているといわれる京都市の公園緑地行政のそのひとつの実績を本件都市公園区域変更処分によつて烏有に帰せしめたのである。

公園についても、これを行政財産として整備された公園と評価するのと、普通財産として起伏のある荒地と評価するのとでは著しい差が生じる。本件都市公園区域変更処分は正にこのような評価視角の変更にあたるものであり、しかもそれが価値低下をもたらす方向でのものであるがゆえに、財務性を有する。

(二) 本件都市公園区域変更処分は、これに後続する土地売却行為と、実質的のみならず法的にも不可分一体であるから財務性を肯定しうる。

すなわち、本件都市公園区域変更処分は売却行為を直接目的としてなされており、また、売却行為が違法で成立しえないならば、当然にその法律上の根拠(都市公園法一六条)を失い、本件都市公園区域変更処分もまた違法、無効たるを免れない。それゆえ本件の場合、原告らの本件都市公園区域変更処分の無効確認ないし取消しの訴えを却下し、本件都市公園区域変更処分の本体を温存する実益もまた存しない。なお、本件都市公園区域変更処分に先行して昭和五九年二月三日付で京都府知事が都市計画公園の変更決定告示を発しているが、かような処分まで、本件都市公園区域変更処分や売却行為との不可分一体性を主張しうるわけではないことをここで付言しておく。

本件都市公園区域変更処分は、(A)本件売却部分約二・八ヘクタールにかかわる廃止、(B)現岩倉緑地部分約一・一ヘクタールにかかわる名称変更、(C)宝ケ池南側斜面等約一四・四ヘクタールの新規開園、(D)本件売却部分の西に隣接する非売却部分約三・九ヘクタールにかかる廃止、を構成部分とする。厳密に言えば(C)の部分については都市公園法一六条の違反は生じないし、財務性もないであろう。(B)の部分については再開園により財産的価値をすでに回復している。しかし、(A)の部分については、右にあげた(一)、(二)の理由により、(D)の部分についても(一)の理由により財務性が肯定される。それゆえ一体としての本件都市公園区域変更処分にもまた財務性が肯定されるのである。

6  以上に主張のとおり本件訴えは適法であり、本件都市公園区域変更処分は違法であるから、原告らは、地方自治法二四二条の二第一項二号により、右処分の取消しを、予備的にはその無効確認を求める。

二  被告の本案前の主張

1  本件都市公園区域変更処分については、監査請求を経ていないから、その取消し、無効確認を求める本件訴えは不適法である。

監査請求の対象は、当該監査請求の趣旨によつて特定すべきであり、単に監査請求の理由において言及されたにとどまる事項は監査請求の対象ということができない。原告らは監査請求において行政財産の用途廃止の違法を土地売却の無効を理由づける一事由として主張したにとどまるから、本件訴えについて監査請求を経たということはできない。

2  本件都市公園区域変更処分は地方自治法二四二条の二の住民訴訟の対象とはならない。

住民訴訟の対象となる行為は財務的行為に限られるところ、本件都市公園区域変更処分は、市有土地の財産的価値の維持、保全、実現を目的とする財務的行為ではないから、その取消し、無効確認を求める本件訴えは不適法である。

三  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2の各事実は認める。

2  同3の主張は争う。

3  同4の前段の事実は認め、後段の主張は争う。

4  同5の主張は争う。

第三証拠〈省略〉

理由

一  原告らが京都市の住民であること、別紙物件目録記載の土地は京都市の所有で都市公園用地であつたところ、被告は、昭和五九年三月一日に右土地を都市公園区域から除外する旨の都市公園区域変更処分をしたことは、当事者間に争いがない。

二  地方自治法二四二条の二の住民訴訟は、地方公共団体における財務の適法性を守ることを目的とするものであるから、同条一項二号により無効確認、取消しの対象となる処分は、抗告訴訟の対象となる行政処分の性格を有していることのほかに、その処分が法律上、物の財産的価値に着目し、それ自体で財産的な効果を生じさせることを目的としてされるものでなければならないと解される。

ある土地を都市公園区域から除外する都市公園区域変更処分は、その土地を都市公園法の定める公共目的達成のために用いるかどうかを定める同法上の処分であつて、土地の財産的価値に着目し、財産的効果を生じさせること自体を法律上の目的とするものではないから、この処分は住民訴訟により無効確認、取消しを求めることのできる処分には該当しないというべきである(道路につきその用途を廃止する処分について、浦和地昭和四八年(行ウ)第四号同五五年四月二八日判決・行裁集三一巻四号一〇三九頁、東京地昭和五三年(行ウ)第一一〇号同五五年一〇月九日判決・行裁集三一巻一〇号二〇六九頁、東京高昭和五五年(行コ)第一〇二号同五七年二月二五日判決・行裁集三三巻一・二号二〇一頁)。

原告らは、別紙物件目録記載の土地には多額の市費が投じられて、整備された公園として利用されて来たところ、本件都市公園区域変更処分によつて右整備が無用のものとなつて市財政に損失をもたらすから、右処分については財務性を認めるべきであると主張する。しかし、ある行政処分に地方自治法二四二条の二第一項二号の訴訟の対象となるべき財務性を認めるかどうかは、処分の法律上の性質自体によつて決すべきものである(従前の裁判例でも原告ら主張のような点を判断要素に加えたものは見当らない)。原告ら主張のように解するとすると、物の用途変更の処分には、殆んどの場合、財務性を認めねばならぬことになろう。原告らの右主張は採用できない。

地方自治法二四二条の二第一項二号の訴訟の対象となるかどうかの訴訟法上の事項の判断にあたつては、具体的な処分をするに当つての処分者の主観的な目的、動機は考慮すべきものではないから、本件都市公園区域変更処分をするに当つて土地を売却する目的、動機を持つていたとしても、そのために訴訟の対象とならなかつた処分が、対象となることになる訳のものではない。住民としては、右処分の効力自体を争わなくとも後続するという売買契約の効力を争うことにより、京都市の財務の適法性の維持を求めることができるのであるから、右処分を右後続する売買契約と不可分的に財務性を有する処分と解すべき根拠はない。

三  以上判断のとおり、本件土地を都市公園区域から除外する旨の本件都市公園区域変更処分は、地方自治法二四二条の二第一項二号の訴えの対象となる適格を有しないから、その取消し、無効確認を求める原告らの同号の訴えは不適法である。よつて、本件訴えを却下することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 井関正裕 武田多喜子 長久保尚善)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例